芥川賞候補に初小説!詩人・向坂くじらの衝撃デビュー作『いなくなくならなくならないで』
詩人・向坂くじら氏が、第171回芥川賞候補に選ばれた初小説『いなくなくならなくならないで』を7月12日に刊行。死んだはずの親友との再会を描いた、愛と憎しみ、親しみと疎ましさ、複雑な人間関係が繊細に描かれた作品だ。
芥川賞候補に初小説!詩人・向坂くじらの衝撃デビュー作『いなくなくならなくならないで』
「いなくなくならなくならないで」。このタイトルを見た時、多くの読者はきっと心を掴まれるだろう。詩人として活躍してきた向坂くじら氏が、満を持して発表した初小説が、第171回芥川龍之介賞の候補に選ばれた。7月12日に発売される本書は、すでに多くの文芸評論家や書店員から称賛の声が上がっており、大きな話題となっている。
物語は、主人公の時子が、死んだはずの親友・朝日から電話を受け、再会を果たすことから始まる。しかし、朝日には住所がなく、時子の家に住み着いてしまう。2人の関係は、愛と憎しみ、親しみと疎ましさ、複雑な感情で揺れ動き、読者を深い心理描写の世界へと引き込む。
「社会や家族や友人とともに在るこの世界は怒りと愛に満ちている」「ずっと握りしめていたものが大事だから握りしめていたのか?握りしめていたから大事になったのか?」など、書店員からの感想からもわかるように、本書は、現代社会における人間関係の複雑さを、鋭く、そして繊細に描き出す。
向坂くじら氏は、詩集『とても小さな理解のための』やエッセイ『夫婦間における愛の適温』など、これまでに数々の作品を発表してきた。その経験を生かし、独自の視点と表現力で、読者の心を揺さぶる小説を完成させた。
『いなくなくならなくならないで』は、単なる青春小説ではなく、現代社会における人間存在の根源的な問いを投げかける、深い作品である。芥川賞候補という輝かしいスタートを切った本書が、どのような未来を拓いていくのか、注目したい。
向坂くじら氏の初小説『いなくなくならなくならないで』を読んだ後、私はしばらくの間、言葉にならない感情に包まれていた。それは、喜び、驚き、そして深い感銘といった、様々な感情が入り混じった複雑なものであった。
本書は、死んだはずの親友との再会という、一見、ファンタジー要素を含む物語だが、そこに描かれているのは、現代社会で生きる人々のリアルな感情だ。親友との再会を喜ぶ一方で、その存在によって自分自身の生活が脅かされる不安、愛と憎しみ、親しみと疎ましさといった、相反する感情が複雑に絡み合い、時子の心の揺れ動きが鮮やかに表現されている。
特に印象的だったのは、親友・朝日が語る「住所がない」という言葉だ。これは、現代社会において、私たちが抱える孤独や疎外感を象徴しているように思えた。誰もが、どこかに属し、誰かとつながっているはずなのに、実際には孤独を感じている。そんな現代人の心の奥底にある不安や焦燥感を、向坂氏は鋭く、そして繊細に描き出している。
『いなくなくならなくならないで』は、単なる恋愛小説や青春小説ではなく、現代社会における人間関係の本質を問う、深い作品である。読み終えた後、しばらくの間、自分の心の中にある様々な感情と向き合うことになるだろう。